WBC世界バンタム級タイトルマッチ(8/15、京都)
ルイス・ネリ O TKO4R X 山中慎介
世界的にほとんど無名の挑戦者で、技術的にも負ける相手ではなかったように思われるが、それ以上に山中の衰えの方が大きかった。内山に続いて長きにわたって日本ボクシング界を支えてきたチャンピオンが敗れるのは寂しいが、
ともあれお疲れ様でしたの言葉を送りたい。
この一戦は、結果にかかわらず感想をupするつもりはなかったが、WEBをいろいろ見ているとストップが早かったのではないかという意見が多くあるようなので、その点について書いてみたい。
まず、セニョールが「最悪のストップ」と言っているようだが、
最悪のストップとは救急車で運ばれるケースであり、ボクシングに関わる者として恥ずかしい発言であろう。村田の時もそうだったが、自分が業界を牛耳っているからといって、自分の言うことがすべて通ると思うのは老害である。まあ、この人には何を言っても始まらない。相手にする方が悪いのである。
そして、問題の4ラウンドまでの展開はどうだったのかというと、私の採点は1Rから3Rまですべてネリである。2Rゴングと同時の左を評価すれば2-1ネリになるが、いずれにしてもネリがリードしていたとみている。その原因は明らかに山中の距離の取り方にあった。
ネリの射程外に立つという当り前のことができておらず、フットワークもほとんど使えなかった。せっかく右ジャブをネリが嫌がっているのだから、ある程度打ったら距離をおいていなすということができれば何の問題もなかった。ところが、左を決めようという意識が強すぎて、いつまでも至近距離にいるものだから反撃のフックを食らうことになる。
山中の武器は長い距離からのストレートであって、何度防衛してもそれ以外の品揃えはできなかった。カウンターもそれほど得意ではない。だから、自分のストレートは当たるけれど相手のフックは当たらない距離に立つことはきわめて重要だし、それより近ければリスクは飛躍的に高まる。
大体、「神の左」などというキャッチが大げさすぎるのであり、サウスポーの主武器が左ストレートなのは当然のことである。チャンピオンとして圧倒的な存在感を示すためには、それ以外の武器、出会い頭の右フックなり位置取りの巧みさなり華麗なフットワークなりを磨く必要があったのだが、山中には残念ながらそれはできなかった。
ストップが早いかどうかの問題だが、あのケースでガードを上げられず、クリンチもできず、ロープ際でふらふらして有効な反撃もできなければ、タオルが入らなくてもレフェリーが止める。効いてないというのならクリンチして逃げろということである。クリンチもできないのなら、止められても文句はいえない。
もう一つ、山中だけでなく何人かの日本人チャンピオンが勘違いしていると思うのは、
スリッピングアウェイは防御として評価されなくても仕方がないということである。スリッピングアウェイは相手のパンチのダメージを逃す技術であるが、当たっていることは当っているのである。
即座に反撃に移れればともかく、攻撃を受ける一方の展開で、いまのはスリッピングアウェイしているから効いていないなどと主張しても、本人が思っているようには他人は思ってくれない。本来は足を使って当てさせない、ガードして明らかにディフェンスしていることを示さないと他人には分からない。俺は打たれ強いから効かないと言っているのと同じである。
試合が後半に持ち込まれて、ダメージが蓄積されなかったので動きが落ちないですんだというのならともかく、相手のフックをガードなしで受けているのに、あれはスリッピングアウェイでしたなどと言ったところで始まらないのである。
もちろん、セコンドはあの状態になる以前の3Rをみて、山中の反応がおかしいことは分かっていてストップを要請したはずで、30代半ばの年齢を勘案すれば、ストップが早すぎるとはいえない。ガードなしで相手のパンチをまともにもらって、深刻な後遺症を残すことの方がセコンドにはおそろしいことである。ボクシングは格闘技なのだから。
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1. 同感です。
なお、私もネリ選手が終始押していたと思います。あのまま続けていても、山中選手の逆転は難しかったでしょう(相手が10位くらいの選手ならともかく、1位の指名挑戦者だった)。